May 21,2020
前回のブログで今月25日発売のアートコレクターズ6月号(生活の友社)の表紙についてご紹介させていただきました。
今回は雑誌の中身について触れさせていただきたいと思います。
前回にも少し触れさせていただきましたが、今月号は「アートを買ってお家に飾ろう!」という特集で大誌上頒布企画が目玉となっております。
その中で更にもう1つ、特殊な括りの企画があります。
それがこちら↓
「アマビエ」特集です。
私は今回こちらの企画にも参加させていただき、妖怪「アマビエ」を題材として新作を描き下ろしました。
《作品文章》
妖怪とはその時代や土地の世相を反映して生み出される存在である。
かつて江戸時代に生まれたアマビエという妖怪は、我々が現代の疫病を孕ませた事によりまた少し違った存在へと生まれ変わった。
私はそんなアマビエを妖怪としての姿ではなく、一つの生物として描きたいと考えた。
もうすでにご存知の方も多いと思いますが、アマビエとは江戸時代に生まれた妖怪です。
その昔、海中から姿を現して疫病の蔓延を予知し「私の姿を写した絵を人々に見せよ」と話したとされています。
元々は認知度が高くない妖怪でしたが、昨今の新型コロナウィルスがきっかけとなりSNS上で爆発的に知れ渡りました。
私自身も今回の流れの中で初めてこの妖怪を知りました。
「瓦版のアマビエ図」(江戸時代後期)
上にある古い瓦版のアマビエ図や、水木しげるさんの描いたアマビエをきっかけとして、SNS上で"アマビエチャレンジ"と称した、それぞれの描くアマビエを提示するというトレンドが誕生しました。
元々妖怪が好きな私は多種多様なアマビエの姿をただ観客として楽しく拝見しておりました。
しかし、それと同時にこの新型ウィルスの驚異に世界が包まれていく中で"妖怪"という存在がトレンドになるという状況をとても興味深く感じていました。
そうした中、まさか自分自身がこのような機会をいただきアマビエを描く事になろうとは正直思いもしませんでした。
そして、妖怪という未知の存在を実際に描く事がいかに困難かという事を思い知らされました。
まず前提として、自分の目で見る事が出来無い生物を上手く描く事は困難です。
その理由は明白で、"観察して描けない"からです。
そのため、描き始めの構想段階ではほぼその姿は、参考にしていた従来のアマビエ図(瓦版)と同じ形態をしていました。
しかし、それではただの高解像度リメイクでしかありません。
何より描いていても全く面白くないのです。
見る人も沢山のアマビエにすでに食傷気味だと思います。
では、どうすれば自分自身のアマビエを描く事が出来るのか…
それには、やはりアマビエという妖怪を改めて自身の中に産み出すしかないと考えました。
しかも、より具体的に産み出すためには妖怪アマビエをそのまま妖怪という未知の存在としてではなく、"一つの生物"として読み解くしかないと考えました。
更に、ほとんどのアマビエが瓦版のアマビエ図と同じく疫病を予知した際の海上での姿で描かれています。
しかし、それは本来非常に稀な状況であり、通常アマビエは海中で暮らしているはずです。
私は生物としてのアマビエを理解するために、あえて海上ではなく海中に暮らすアマビエを描く事に決めました。
そこから、私はとにかくアマビエという生物の生態を自分なりに想像する事に努めました。
「構想段階のアマビエ」
構想段階では実にバリエーション豊かだったアマビエの姿(鳥や両生類の案等もあった)も実際に生息している姿を想像する事で数が絞られていきました。
また生物としてのアマビエを意識し過ぎるあまり、妖怪アマビエという根本的な印象が抜け落ちてしまわないよう注意しなければなりません。
従来のアマビエとは少し違うが、一目でアマビエとわかる。
それを意識して制作しました。
「瓦版アマビエ図との比較」
そうして完成したのが今回の「アマビヱ」です。
瓦版アマビエ図を見ると、アマビエは海上に姿を現して波の上に立っていると解釈されがちですが、実は立ち泳ぎをしていて半身は海中にあったのではないかと考えました。
3つの尾ビレだけという奇妙な形態も、これならば納得がいきます。
そして、普段人の目に触れないような場所は深海でありアマビエはそこで暮らしているという仮定から、体は深海魚のような形状をしています。
また、伝承ではアマビエは海中で光っていたという事ですが、それも深海魚特有の発光機能を有していたと仮定すれば納得がいきます。
構想段階ではあれだけ苦戦したアマビエ制作も、ここまで来るとあとは楽しくて仕方ありませんでした。
普段は深海でひっそりと暮らしているアマビエが、クラゲ漂う海面付近を時折ユラユラと漂っている。
そんな生物としてのアマビエの姿を描きました。
「アマビヱ」
2020/木製パネルに画用紙・鉛筆・アクリル絵の具/333×242mm(F4)
私は妖怪という存在そのものよりも、昔の人々が"畏れ"という未知に対する恐怖を妖怪という具体的な"生物"に置き換える事で可視化しようとした、その試み自体にとても興味を惹かれます。
昔の人々はそうする事で未知への恐怖や不安を乗り越えようとしたんだと思います。
私にはその状況と昨今アマビエチャレンジの状況が重なって見えます。
妖怪はその時代の世相を色濃く反映して産み出されます。
アマビエはもはや疫病を予知するだけの妖怪ではなく、疫病を払い除ける妖怪へと私達の手で変貌を遂げました
私達が今見ているアマビエは現代に産み出された最も新しい妖怪と言えるのかも知れません。
こちらの作品「アマビヱ」は今月25日発売のアートコレクターズ6月号に掲載されております。
是非手に取ってご覧下さい。
https://www.tomosha.com/smp/collectors/
アートコレクターズ No.135 2020年6月
お問い合わせは、
〒104-0061
東京都中央区銀座1-13-12 銀友ビル4F
Tel. 03-3564-6900 Fax. 03-3564-6901
https://www.tomosha.com/contact/
今回は雑誌の中身について触れさせていただきたいと思います。
前回にも少し触れさせていただきましたが、今月号は「アートを買ってお家に飾ろう!」という特集で大誌上頒布企画が目玉となっております。
その中で更にもう1つ、特殊な括りの企画があります。
それがこちら↓
「アマビエ」特集です。
私は今回こちらの企画にも参加させていただき、妖怪「アマビエ」を題材として新作を描き下ろしました。
《作品文章》
妖怪とはその時代や土地の世相を反映して生み出される存在である。
かつて江戸時代に生まれたアマビエという妖怪は、我々が現代の疫病を孕ませた事によりまた少し違った存在へと生まれ変わった。
私はそんなアマビエを妖怪としての姿ではなく、一つの生物として描きたいと考えた。
もうすでにご存知の方も多いと思いますが、アマビエとは江戸時代に生まれた妖怪です。
その昔、海中から姿を現して疫病の蔓延を予知し「私の姿を写した絵を人々に見せよ」と話したとされています。
元々は認知度が高くない妖怪でしたが、昨今の新型コロナウィルスがきっかけとなりSNS上で爆発的に知れ渡りました。
私自身も今回の流れの中で初めてこの妖怪を知りました。
「瓦版のアマビエ図」(江戸時代後期)
上にある古い瓦版のアマビエ図や、水木しげるさんの描いたアマビエをきっかけとして、SNS上で"アマビエチャレンジ"と称した、それぞれの描くアマビエを提示するというトレンドが誕生しました。
元々妖怪が好きな私は多種多様なアマビエの姿をただ観客として楽しく拝見しておりました。
しかし、それと同時にこの新型ウィルスの驚異に世界が包まれていく中で"妖怪"という存在がトレンドになるという状況をとても興味深く感じていました。
そうした中、まさか自分自身がこのような機会をいただきアマビエを描く事になろうとは正直思いもしませんでした。
そして、妖怪という未知の存在を実際に描く事がいかに困難かという事を思い知らされました。
まず前提として、自分の目で見る事が出来無い生物を上手く描く事は困難です。
その理由は明白で、"観察して描けない"からです。
そのため、描き始めの構想段階ではほぼその姿は、参考にしていた従来のアマビエ図(瓦版)と同じ形態をしていました。
しかし、それではただの高解像度リメイクでしかありません。
何より描いていても全く面白くないのです。
見る人も沢山のアマビエにすでに食傷気味だと思います。
では、どうすれば自分自身のアマビエを描く事が出来るのか…
それには、やはりアマビエという妖怪を改めて自身の中に産み出すしかないと考えました。
しかも、より具体的に産み出すためには妖怪アマビエをそのまま妖怪という未知の存在としてではなく、"一つの生物"として読み解くしかないと考えました。
更に、ほとんどのアマビエが瓦版のアマビエ図と同じく疫病を予知した際の海上での姿で描かれています。
しかし、それは本来非常に稀な状況であり、通常アマビエは海中で暮らしているはずです。
私は生物としてのアマビエを理解するために、あえて海上ではなく海中に暮らすアマビエを描く事に決めました。
そこから、私はとにかくアマビエという生物の生態を自分なりに想像する事に努めました。
「構想段階のアマビエ」
構想段階では実にバリエーション豊かだったアマビエの姿(鳥や両生類の案等もあった)も実際に生息している姿を想像する事で数が絞られていきました。
また生物としてのアマビエを意識し過ぎるあまり、妖怪アマビエという根本的な印象が抜け落ちてしまわないよう注意しなければなりません。
従来のアマビエとは少し違うが、一目でアマビエとわかる。
それを意識して制作しました。
「瓦版アマビエ図との比較」
そうして完成したのが今回の「アマビヱ」です。
瓦版アマビエ図を見ると、アマビエは海上に姿を現して波の上に立っていると解釈されがちですが、実は立ち泳ぎをしていて半身は海中にあったのではないかと考えました。
3つの尾ビレだけという奇妙な形態も、これならば納得がいきます。
そして、普段人の目に触れないような場所は深海でありアマビエはそこで暮らしているという仮定から、体は深海魚のような形状をしています。
また、伝承ではアマビエは海中で光っていたという事ですが、それも深海魚特有の発光機能を有していたと仮定すれば納得がいきます。
構想段階ではあれだけ苦戦したアマビエ制作も、ここまで来るとあとは楽しくて仕方ありませんでした。
普段は深海でひっそりと暮らしているアマビエが、クラゲ漂う海面付近を時折ユラユラと漂っている。
そんな生物としてのアマビエの姿を描きました。
「アマビヱ」
2020/木製パネルに画用紙・鉛筆・アクリル絵の具/333×242mm(F4)
私は妖怪という存在そのものよりも、昔の人々が"畏れ"という未知に対する恐怖を妖怪という具体的な"生物"に置き換える事で可視化しようとした、その試み自体にとても興味を惹かれます。
昔の人々はそうする事で未知への恐怖や不安を乗り越えようとしたんだと思います。
私にはその状況と昨今アマビエチャレンジの状況が重なって見えます。
妖怪はその時代の世相を色濃く反映して産み出されます。
アマビエはもはや疫病を予知するだけの妖怪ではなく、疫病を払い除ける妖怪へと私達の手で変貌を遂げました
私達が今見ているアマビエは現代に産み出された最も新しい妖怪と言えるのかも知れません。
こちらの作品「アマビヱ」は今月25日発売のアートコレクターズ6月号に掲載されております。
是非手に取ってご覧下さい。
https://www.tomosha.com/smp/collectors/
アートコレクターズ No.135 2020年6月
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