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混蟲について
前回ご紹介させていただいた新種の昆虫である“混蟲-こんちゅう-”

いよいよ来週30日に迫った発表を控え、今回はその混蟲について改めてご紹介させていただく。
少々長くなるが是非お付き合い願いたい。

まず、混蟲とは一体何なのか、どのような生物なのかについて簡潔に説明しておきたい。


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自然環境の激減により減少の一途を辿る昆虫達は、人類の暮らす都市部に移り住み適応する道を選んだ。
人々が大量に消費し廃棄するゴミは、もはや彼らにとってかつてのような害ではなく今や貴重な糧となった。
彼らは人々の生活に紛れ込み、巧みに擬態・適応し新たな種“混蟲”となった。
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混蟲は凄まじい適応力で現在も種類を増やし分布を広げ続けている。
今や彼ら混蟲がどのような形体や生態で、どれだけの個体数が存在しているのか見当もつかない。
とはいえ、一般人が彼らに気付く(意識できる)事はほとんど無く、ましてや捕獲など至難の業だ。

彼らは人々の暮らしの“スキマ”に紛れ込む。
綺麗に整理整頓されたように見える都市の裏側に存在する“澱み”こそ彼らの住処だ。

今回発表させていただく混蟲達はそんな希少な彼らの中でも比較的観察が進んだ種類を選んだ。
※研究ノートも掲載するが私的に書いたもので字が読みにくいため、下部に抜粋して書き出しておく。






➀「マンサツガ」(万札蛾)







日本最大の蛾で知られるヨナグニサンの新種。
羽の模様が紙幣の一万円札に擬態している事からこの名で呼ばれているが、正式には「カミマネガ」(紙真似蛾)と呼ばれる。
カミマネガという名前で分かるように紙幣以外でも紙状のもの(新聞・雑誌・チラシなど)であれば基本的にはどんなものにでも擬態する。
幼虫の時期に最も多く摂取した紙の模様を記憶し、成虫となった際に羽へ反映する。
よって、複数種類存在しているようだが、実際には全て同種と考えられる。
幼虫の時の体色は白。
全く同じ習性を持つ混蟲に、ヒデムシやシラセバッタ等がいる。

他の蛾同様に夜行性で街灯等に集まっているのを稀に見つける事が出来るが、昼間に見かけた事は一切無く一体どこでどのように過ごしているかは全くの謎である。
成虫には口が無く、幼虫期に蓄えた栄養のみで繁殖を迎え、成虫になってわずか1週間程で寿命を迎える。

最も多く見受けられるのは新聞と雑誌に擬態した個体だが、稀にこのように紙幣に擬態した個体も見受けられる。
その中でもこのように一万円札で模様も克明に真似ている個体は大変珍しく、私もたった一羽しか捕獲した事がない。

数ある混蟲の中でも特に目立つ事から、一般人に最初に発見された混蟲でもある。
そのため乱獲の対象となってしまい現在では数を極端に減らしてしまった。
一部のマニアの間では、高値で取引されるマンサツガを意図的に生み出すために紙幣を餌として与え人工飼育を試みているようだ。
幼虫から成虫までの間に必要な紙幣の数が膨大になる事から餌となる紙幣はほぼ全て偽札だ。
そのため人工飼育されたマンサツガの羽の模様は若干精度が落ちる。

あまり言いたくはないが、混蟲の中で最も進化に失敗した種と言わざるを得ない。




➁「ガラムシ」(殻蟲)








木の枝に巧みに擬態するナナフシの新種。
木の枝ではなくタバコの吸殻に擬態している事からガラムシ(殻蟲)と呼ばれる。
他にもタバコムシやシケモクムシとも呼ばれている。
混蟲の中で最も容易に発見することが出来る種類だ。

ナナフシは本来枝に擬態し樹上に生息しているが、このガラムシは主に地面に生息している。
特に道路脇の隅を好み、ゴミに紛れてじっとしている事が多い。
飼育下でも常に水槽の隅にいて、ほとんど動かない。

餌はタバコの葉。
体のタバコ部分は本物のタバコで、タバコの吸殻を補食する際に中身の葉を食べた後そのままタバコの紙部分を体に被って擬態する。
体全てを覆うほどタバコを纏った後は、1つ吸殻を食べる度に古い吸殻を脱ぎ捨てていく。
体に付着したタバコの紙を剥がす事が出来るが、その状態にすると非常に神経質になりわずか数日で死に至ってしまう。
しかし、その点にさえ注意すれば特に難しい技術を必要としないため、餌が多く確保できる喫煙者であれば非常に飼育しやすい混蟲だ。

幼体は時は普通のナナフシとほとんど変わりない形態をしている。
メスは繁殖期になると腹部の端が薄紅色に色付く。

混蟲の中でも特に多く発見することが出来る事から、上手く都市に適応混蟲だと言える。




➂「シラセバッタ」(報ば飛蝗)







新聞紙に擬態したバッタの新種。
主に新聞紙に擬態しているが、体色のバリエーションは多岐に渡り他にもチラシや雑誌に擬態した個体も発見されている。
それら全て同種のバッタで総称して「シラセバッタ」と呼んでいる。

餌は新聞やチラシ・雑誌等の古紙で幼虫の時期に最も多く摂取した紙の模様を記憶し、成虫となった際に体へと反映する。
幼虫の時の体色は白。
全く同じ習性を持つ混蟲に、ヒデムシやカミマネガ等がいる。

生息場所は新聞等の古紙が沢山集まる場所で、主にアパートやマンションなどのゴミ捨て場に多く生息する。
また、生息地域の古紙回収の日を記憶することができ、その日に注意深く探せば比較的容易に発見する事が出来る。(それでも一般人には滅多に発見されないが)

混蟲の中でも本種は最も初期に発生し急速に分布を広げ個体数も多い。
おそらく全混蟲の中で最も多く生息しているのは本種だ。
そして、その後を追うようにしてツツミカマキリ等の肉食混蟲も多く発生し、分布を広げていった。




➃「ツツミカマキリ」(包蟷螂)







段ボールなどの梱包材に擬態したカマキリの新種。
マレーシアに生息するヒシムネカレハカマキリに形態が酷似している事から近類種と推測する。

段ボールに非常に上手く擬態した体の質感や模様もさることながら驚くべきはその鎌(カマ)の部分だ。
良く見ると段ボールの断面の形状を見事に表現している。
カマを胸に構えている状態は見事に段ボールそのものに映る。
蝶やバッタ等の草食混蟲が擬態するのは主に我々人間等の捕獲者から身を隠すためだが、このツツミカマキリ等の肉食混蟲はそれだけでなく、他混蟲を上手く捕食するための擬態も並行している。

幼体の頃は一見普通のカマキリと変わりない。
餌はシラセバッタ等の混蟲。
そして普通の昆虫も捕食する。
理由は不明だが混蟲は混蟲よりも普通の昆虫を好んで捕食する傾向があるようだ。

私はその理由として、混蟲は昆虫に新しく取って代わる種として君臨しようとしているからだと推測している。
その証拠に、蝶・バッタ・カマキリ・ナナフシ・コノハムシ・甲虫と、ほとんどの種類の昆虫で混蟲としての新種が確認された途端に従来の昆虫は激減する傾向にある。




➄「ワギリムシ」(輪切蟲)







インドネシアやマレーシアの熱帯雨林に生息するバイオリンムシ(ウチワムシ)に酷似した形態の新種。
その姿は混蟲の中でも特に奇っ怪で、生息数は極端に少ない。
羽の部分が輪切りの果物や野菜に擬態している事からワギリムシと呼ばれる。
羽の部分はリンゴ・オレンジ・レモン等の果実が多いが、稀に玉葱などの野菜も発見される。
体長に比べて厚みが5mm程と非常に薄いため、捕獲が非常に困難な事も生息数が少ないとされる理由なのかもしれない。
この姿からは想像し辛いが、きちんと飛行能力を有している。

餌は果物や野菜。
混蟲の中では珍しく自然由来の食物を捕食する事も生息数が少ない理由なのかもしれない。
ある程度腐った果物が好みのようで、その独特の匂いに惹き付けられているようだ。
ワギリムシ自体も甘ったるい体臭をしている。
生息場所は他の混蟲と同じくゴミが多い場所で、特にワギリムシは餌となる残飯等が多い飲食店街に多く生息している。
とはいえ、その姿を見かける事は滅多に無く、その奇っ怪な姿と希少性からパリなど諸外国の博物館が大金を払ってでも収蔵しようと躍起になっている。



⑥「コゼニムシ」(小銭蟲)







混蟲の中でも特に発見が困難な種がこのコゼニムシの仲間だ。
この混蟲もカンカリムシ同様、ごく最近発見したばかりの新種になる。
多種に比べて甲虫は適応に時間がかかったのだと推測する。
1円玉→ココゼニムシ
5円玉→アナゼニムシ
10円玉→コゼニムシ
50円玉→オオアナゼニムシ
100円玉→ゼニムシ
500円玉→オオゼニムシ
以上6種の硬貨全てで擬態が確認されている。
どれも形・質感ともに本物の硬貨そっくりだ。
しかし唯一、重さだけ本物の硬貨と異なり軽いため、手に持った時の小さな違和感で気付く事がある。

腹部は昆虫本種の部分が露出しているが、背中部分は硬貨とほぼ変わらない。
餌は不明。
更に繁殖方法や幼体・成体の有無や形状など、そのほとんどの生態が謎である。

私はこの6種のゼニムシは全て同種と考えている。
その証拠に一定期間飼育していると、どの個体もサナギ状になって休眠する。
おそらくこの間に1つ大きな硬貨へと変化しているのだが、飼育が大変難しく羽化する前に息絶えてしまう。
そして、最も気になるのは一番大きな硬貨である500円玉のオオゼニムシもサナギになる事だ。
500円玉より大きな硬貨は存在しないので、オオゼニムシが変化したサナギが羽化した時は一体どのような姿に変わるというのだろうか…




⑦「カンカリムシ」(缶借蟲)







混蟲を都市に放ってから沢山の新種を発見したが、その中でも特に驚いたのがこのカンカリムシだ。
この頃はすでに私自身ですら混蟲を発見することが難しくなっていた。
彼らは姿形だけでなく材質や質感ですらも巧みに変化させはじめた。
このカンカリムシは体までアルミ缶そのものだ。
手にした時の冷たい感じ、光沢と重み。
昆虫というより精巧に出来た機械のようだ。
更に面白いのはこの混蟲は本物のゴミ(缶)を用いて擬態するというところだ。
この缶を借りる姿からカンカリムシと呼ばれる。
餌は不明。
このカンカリムシは擬態を最優先する進化の結果、脚を完全に腹部に収納するために脚の一部(先端)が退化している。
これは同じコガネムシの仲間であるスカラベに非常に似ている。
この種は未だ謎の多い種だがその中でも特に繁殖方法についてはほとんど分かっていない。
ただ、この種の一部に缶のプルトップを頭部に付着させた個体が見つかっている。
これはカブトムシ等の甲虫のオスに見られる角と同じようなものではないかと推測する。
角も背の缶同様に、口から出す強い粘性の唾液を用いて付着させている。

私はこのカンカリムシとコゼニムシの2種が実は同種の混蟲ではないかと考えている。
腹部(本体)の形状だけ見れば形状が酷似しているし、この種特有の匂い(おそらく唾液による)も酷似している。
コゼニムシは硬貨の一番大きな500円玉のオオゼニムシまで確認できているが、もしそれ以降も成長しているならば硬貨以外のものに擬態しなければならなくなる。
その疑問に答える仮説がこのカンカリムシへの成長である。


以上。




私の発表する混蟲以外にも様々な生物がこの展示で発表される。

姿形は違えど彼らは一様に人という存在が生み出した“澱み”や“矛盾”を孕んでいる。

私は今回の展示をきっかけに“彼ら”の存在に気付いてもらいたいと思っているわけでなはい。

彼らが“何に”擬態し“何処に”生息するかを知ることで、人という存在がどんな生物なのかを各々感じ取ってもらいたいと願っているのだ。


釜 匠





↓展示詳細↓

■『人工UMA展』
- Artificial Unidentified Mysterious
Animal Exhibition -
  2018/05/30-06/10
  OPEN 12:00-18:00
※最終日のみ16:00まで
  期間中無休
http://www.combine-art.com/html/gallery/ga_schedule.php

■会場
  BAMI gallery
  〒600-8824
  京都市下京区二人司町21番地
  TEL 075-754-8154
  office@combine-art.com
http://combine-art.com/html/gallery/ga_access.php

■発表者
釜匠 (かま・たくみ33歳)
佐野曉 (さの・あきら37歳)
宮本大地 (みやもと・だいち27歳)
松本央 (まつもと・ひさし35歳)
遠藤良太郎 (えんどう・りょうたろう31歳)
太田夏紀 (おおた・なつき25歳)
岡部賢亮 (おかべ・けんすけ28歳)

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