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光琳へ 15  最終
さぁ、そろそろこの光琳シリーズも終わりにしたい。


本当はもっと前に終わる予定が


あの当時の事を思い出しながら書き進めていると
色々なことが蘇りどんどん増えていった・・・


少し怒りも・・


先に結論から書けば、屏風は当然完成した。
しかし、思ったほどは“売れなかった”・・これが結論である。


損はしていない。私たちが通販会社に対しての売買契約としては
小売価格で数千万円という実績ではあった。
しかし、これは初期計画の最低レベルである・・・・


通販会社がその仕入れたものを売れなかった?これは正確ではない
売れるようになっていなかった、これが私の実直な感想である。


カタログを見た瞬間、駄目だ・・・と直観した。。


はっきり言うがコピーも内容も写真もすべてダメであった・・
これが限界か?と暗澹たる気持ちになったのを覚えている。。


当たり前すぎる、、常識的、、史上初!などというキャッチコピー
が刷られていたが・・・なんとも・・・・くだらない。。。。


前回、販売に関してのフロントとなる通販企画の会社
と価格面での話を書いたが、結局、こちらサイドの言い分が
通った形となり、おおよそこのスキームは校正を順調に段階
を踏んで進めるというところまで来ていた。


ここまでくれば完成させるためには
他に懸念することはそうはない・・筈なのだが・・


なんとなく感じた方もおられると思うが、どうも私はあの
価格の話を通販企画と進めていた時から、この企画を販売する
側とは正直温度差が生まれていた。なにかが違う?という違和感
があった。基本的に私の背景となる製作側が私を飛び越えて販売側
と話をすることはなかったが、その中間に立つ私が感じたものは
作る側と売る側のあまりにもの情熱の違いであった・・


こんな感じで本当に売れるのだろうか?


ここで私が素直に感じたこととは、仕事に対する畏敬・・という事と、
こういう仕事は、それぞれが真ん中に置いたテーブルに会社代表として
席に着き会社の思惑とテーブルの議論の距離を測りながらより高い次元
を求める、そこにはある種の“ダブルスタンダードを兼ね備えていく、、
そういう心づもりがないといけないかな。。と感じた。それが常にある会社の
こういう担当ですという枠の中から意見を言ったり、と言う人間が混濁
すると、その人間は帰属会社に対するロイヤリティーを高く留保でき仕事が
貫徹するような高揚感を持てるが、どうも“それ以上に昇華”する要素が
極端に少ないというか・・・どうも相容れないもののみが残りの人間には
積算される。。。


この光琳の仕事を通して一番の失策部分であった事は間違いない。
作るということは手段であり、目的は売る・・・であった。細心の注意を
払い目的と手段が逆転しないよう心がけてきたつもりではあった、これは
間違いない、しかし、私の立場の仕事として作る・売るという間に立って
の調整の仕事において、この両極の温度を一定に保てなかった・・・
それも中間に立つ人間のコンセプトを色濃く反映させてという肝心要の部分
が、モノつくりの温度の方が想像以上に上がってしまったのであった・・


そして、ものづくりのレベルが想像以上の高さを保つことを初期に想定しきれて
いなかったが故に、販売側へのこれまでの既成観念や固定観念の打破を仕事として
時間的に入れ込んでいなかったのが最大の問題であった。これは逆に言えば、私も
彼ら通販側の通常販路、通常販促でなんとかするという想像しかもっていなかった
という証左であり、こういう仕事を貫徹するうえでの想像力が脆弱であった。。。。


これは実は良い勉強になった。


今のこの“COMBINE”という仕事を始めるにあたり、一番勉強になった
部分だと思う。。


COMBINEとは“円卓”である。


光琳の仕事を通して、この作品が商品と変化する時点を、自らの仕事の
アイテムとして、上に見るか、下に見るか?少し抽象的ではあるが、、、


他に比類なき芸術品を再現し、それを複製として広く訴えかける・・・
この場合、、、、そのモチーフとして選んだものを真剣に考察し、それを
どう活かすかという高い次元の検討なくして本当に感動が生まれる
か?感動を伝えられるのだろうか?それは自らの使命としてどの
ように捉えるか・・・という事がこの円卓概念には至極重要となるという
風に感じた。。


この光琳の仕事の時に感じた違和感とは率直に私は疑問、、いや不信
と言っていい感覚を相手に対して持つにいたった。これではダメである・・


こののちこの仕事は契約、そして販促という製作とは並行した販売企画
側の部分にも仕事が進行していくのであるが、結果的にはすべて
丸くおさまって進捗はしたのであるが、その大半がどうもシックリ
くる感覚がなかった。


本当は“契約書”を美術館、ライセンス窓口商社、通信販売企画会社
そして制作の我々と4社間で締結するという構想であったのだが、これは
ここでは書けないが、“大揉めに揉めた!”。。。。


実は私はこれまで書いては来なかったが、この販売に関しては、一般
ユーザー向けだけではなく、もう一つの販路を用意しその部分も契約
内容に突っ込んでいた。


契約書のキーは販売者である通販企画側からのものなのだが・・
これが、どうも・・・ここではとても問題があるので書けないが、とにかく
しっくりこないものであったことだけは確かである・・


いずれにしても良い勉強をさせてもらった。。


さて終わるにあたり最後に一つだけ完成にいたるまでの最終局面で
ぶち当たった問題点、それを突き抜けた時の話をしたい。。


最大の難関は、やはり現行屏風の欠損した箇所をどのように
仕上げるか?という部分に集約されていた・・


確か校了まで都合7回の校正作業をしたように記憶している・・
(8回だったかもしれない・・・)


その5回目だったと思うが、やはり欠損部分から派生する全体の色調の問題が
浮上した。印刷であるから、版により色分解し結合させているわけではない。
だからある色を満足いくところまで仕上げたとしても、その為に他の色が
予想外の方向へ引っ張られる傾向を如実に表してしまうのである。


多少ダイレクトメールなどの印刷物でも経験することがあるが、赤が勝ちす
ぎると、全体に黄ばんだ色になっり黄緑系になったりという傾向を発生
させてしまう。これと非常に似ている。問題の発生は樹木の墨の色から
だったと思うが、ここから全体の色調が崩れだした。校正の方向を確認
しもってのオペレーションだったのであるが、人間の感覚だよりであり
言葉があってないような微妙な世界である。そして最大の問題は、恐れていた
校正場所がこの日会議かなにかの関係で変更になったのであった。


明らかに通常よりも明るい部屋、光線の角度も違う、これは!と皆、緊張
したのであるが、案の定、美術館側は怪訝な表情をした。少し違う?・・

ここから微妙なズレが生まれだした。


慌てて、元の部屋での確認を依頼し、渋々応じてもらったが、一度もった違和感
がすんなり消せるほどの根拠を得るには至らなかった。。。


欠損部分は最初からわかっていた事ではあるが“想像の世界”である。
この部分を埋めるには全体の色調を確認しながら欠損部分を違和感なく色調を
整えるという作業だったのであるが、全体に違う?となると、この欠損部分を
一から考え直さなくてはならない・・・それは全体を変更するというところま
で行きつきかねない・・


これはなにを意味するか?


相手の満足のいく基準が生まれるまで延々と続くという事である。。


では、やればいいではないか?と思うが、多少印刷を知っている方
だと分かるが、校正を5回も重ねるということは、すでに利益部分
をかなり削っているのであった。本来3回以上でもそうである。
今回の場合、ある程度難度を考慮して見積もりを算出していた筈
ではあるが、5回を超え、あと何回かかるか分からないとなれば
印刷会社としては非常に危険な水域に差しかかる。これがあと一回
で都合6回で校了と目途が立っているならば同じ5回を超える校正
といっても話が違う。今回の問題は5回まで積み上げたものが、
御破算?かも?という意味での次の6回目であった。一からやり直し
という見方が出来なくもない状況であった・・・・


美術館が提議したのは、、、
まったく漠然とした課題ではなかったが、しかしながら、、、
主観が支配する世界であることは間違いなかった・・・


この日、美術館を出た関係者一同は喫茶店で対応策を協議した。
窓口商社担当、私、印刷会社2名、屏風制作会社1名・・・・


計5名


重たい空気が流れていた・・


印刷会社のNさんから、このままでは・・という苦悶に満ちた
問題に対する感情が出た、、一同その事情は分かっていた・・


赤字を垂れ流し続けてまで付き合えない・・


営業的に“ここらで”という風にもって行けないか?
という着地点を作ってくれという懇願に近かった・・


しかし、それは難しかった。
とても美術館が受け入れるとは思えなかったし、そんな事を
こちらから持ち込めば、即時中止・・・となることは目に見えていた。。


ゥーーーーン、、、と沈黙。。。


それぞれ帰りの新幹線の時間が迫っていた。
いろいろ問題がこれまであったが、実はこのときが一番暗礁に乗り上げた
ような記憶がある・・・それは技術的な部分とコストという部分が同時に
襲いかかった問題であった。。そしてここまで来て退却できないという我々
が進んできた道程があった。。。


このとき、いや、これまでずっと黙っていた


印刷会社のHさんが口火を切った!


「まだ、全部出し切っていない!」


「????」


皆、なんのことか分からなかったが・・黙ってHさんの次の
言葉をまった・・



「まだ、やれることがある。まだ全部出し切っていない!」



どうも、今日一日、何か違うという判断を出し始めた美術館側
を観察し続けていたようであり、我々がアタフタとしていた時
美術館が求めるものを解析し、一人冷静に今後の作業を繰り返し
頭の中で組み立てていたようであった。。



「我々は印刷屋だ、これを前に引き下がるわけにはいかない!」



同じ印刷会社のNさんも黙って聞いたいた・・



「上山さん、あんたがびっくりするような技術がまだまだあるで!
絶対美術館が納得するもんを作るから任せて!心配せんと任せて!
負けるかいな!」


と、、ニコッと私を見て笑った。。



事実、こののちの校正は何が良かったのか?我々は正直よく分からなかっ
たがすんなりと通った・・



そして完成した。



自分で言うのもなんだが



この仕事を今まで20年してきて
様々な複製、版画、それこそ数限りなく扱い
見てきた。しかし、この紅白梅図屏風1/2複製程
優れたものはない!



これは断言できる。



あれから2年



今、契約の関係で販売権利は私の側にはない。現在塩ずけ状態である。
しかしあとわずかで、この販売権は解除される。


もう一度、挑戦するつもりである。
自分なりのプロモーションでやってみたい。



これほど優れたものがこのまま塩ずけになってはいけない。



まだ、この仕事は終わってはいない。。。



そう、光琳に伝えたい!



end

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