June 18,2009
さて、2か月が過ぎ
いよいよ美術館に伺う日がやってきた。
この年は例年と違い、紅白梅図は2月からの公開
ではなく、一月の確か28、29あたりから公開していた。
美術館側に校正の方向性の確認が、この日の重要な仕事であった
のであるが、それと並行して実物の確認、これも重要な仕事であった。
これから具体的に作るにあたり何度も確認できるものではない。
しかもこの伺った日あたりから僅か約40日間の展示。。。
今回見るというのは、この一回で実像を網膜に焼きつけなくては
ならないということであり、それぞれ持ち場ごとに大事な箇所
当然印刷を受け持つ者は細部にわたる色の確認、屏風制作を受け持つ
ものは細部の作り、我々はやはり全体の印象・・・と、、それぞれ
が明確な意識をもって臨んだ。。
この日、伺ったメンバーは、私、私の部下の鳥居、印刷会社からは
営業のNさん他技術者3名、屏風制作会社営業のFくん、美術館への
担当窓口商社の営業Kさん、以上総勢8名であった。。
予定の時間までロビーで雑談をしながら副館長、学芸課長を待った。
30分ほどして事務所に来るようにと取次の女性から言われ、皆一列
に並んで事務所に入っていった。あらかじめ訪問メンバーは伝えていたので
あるが、やはり実際、大の男がゾロゾロと8名、そう大きくない事務所に
入っていくと、なんとも言えない圧迫感がうまれ、美術館の方も一瞬
ひるんだように思えた・・・
早速に東文研のデーターを広げ確認に入る。
美術館側は、驚くこともなく、あっさりと、欠損、破損部分等は
商品として美しく仕上げてください・・という事であった。
一般のお客様がお持ちの美しいイメージを再現してください。
と、言う方向性の指示であった。。。
正直、、私は少し残念であった。
実は、どこまでも忠実に現在を再現するということに、少し
欲求をもっていた。実際その方が“面白い”し付加価値を考えても
いいのではないか?と誰にも特に言わなかったが、そんなことを
考えていた。
実際、、、今でも残念なのである・・・
さて、
今回の問題は、このような答えを得て解決というほど生易しいもの
ではない。現状以外の“美しい紅白梅図”となると、一体どの時点での
経年劣化を再現すれば良いのかという問題が生まれるのである。
傷んでいるものであるのは間違いない、その傷み具合をどの程度にするか?
これは制作側の想像、イメージの世界に託されることになるのであるり、それを
美術館側のイメージとどうチューニングするか?実に難しい作業となる。。
まったく新しい、、それこそ光琳が書上げた当時を想像で再現したとしても
美術館の学術的見解に沿うのかどうかという問題が生まれる。しかし
この場合意外とリセットしてやり直しやすい部分があるが、今回のような
経年劣化のどの時点が“美術館の言う美しさ”になるのか・・・・・・と
言うようなものの場合、、、、改めて校正回数は多い!と腹をくくったので
あった・・・・
一通りの確認が終わろうかという時に、学芸課長から
「では、今の確認事項を踏まえて、紅白梅図を見にいきましょう!
まだ閉館時間ではないですが、今年は例外的なスケジュールで一月から
公開してまして、実は案外ご存じない方が多く、今は閑散としてます、
ちょうど良い機会に来られた。」
と声をかけていただき、課長のあとについて8名がゾロゾロ紅白梅図
の展示場へ向かった。
薄暗い展示場の一番奥
ぼぉ----と浮かび上がる
紅白梅図・・・
国宝。
美しい・・・
中学時分に教科書で見た、あの紅梅の根元、、人の足のような
間違いなく本物だ・・・・
しかも、、
頭の中に入っていたサイズより、、数段大きく感じる。。。
風格と威厳。
これほどまでに・・・・・“ 凛 ”としている絵画は
そうは、ない!
ある意味驚愕であった。
写真、書籍、ポスター
まったく別物だ。
これを1/2で複製するのか・・我々は。。
と、、しばらく8名は展示ガラスの前で立ち尽くしていた。。。
ぼぉ----と見ていたのであるが、気づくと
印刷会社の4名はカラーサンプルを取り出し屏風正面に陣取り
ああでもないこうでもないと打ち合わせを始めた・・・
立ったり座ったり、寝転んで下から眺めたり
顔をガラスにくっつけ・・・・・
学芸課長から
まだ完全な閉館ではないですから・・お客様のご迷惑にならな
いように!
と、注意されるぐらいのハイテンションで4名がガヤガヤと大声
でやりだした。最初は其のつど注意していた学芸課長も半ば呆れ
たように、、、諦めて見守ってくれた・・・
まるで子供がおもちゃ屋のウィンドウの前で、騒ぎはしゃぎ見ている
風景であった・・
閉館を約30分超えても我々はその場を離れようとはしなかった。
気づくと展示場に入ってからゆうに一時間は過ぎていた。。。。。。。
私も同じく、じっと何度も様々な箇所を見つめ続けていた。
あることに気づく・・・
あきない・・・
この絵は相当な時間見続けてもあきない。。。
そして、一番大事なのは、この威風堂々とした佇まい。。
これを果たしてどれほど・・・
と、ぼ------と考えていると、、、学芸課長から
「本当は絶対にダメなんですが、皆さんの熱意、これに
少し応えさせてもらいます。。」
「??」
「お一人“5秒”以内」
「??」
「この隅からガラスケースを開けますので、ガラス越しではない
実物の色を見て下さい。何度も言いますが一人5秒です。それ以上は
コンディションが変わりますので・・・」
皆、、、“えっ”とお互いの顔を見合わせた!
慌てて、それぞれ、ハンケチを口に当て、学芸課長が立つ
ガラス開口部に一列になって並んだ・・
それでは、と順番に5秒づつ学芸課長がガラスを開け閉め
という作業を開始した。。
この場合、技術者からの順である。
当然私や私の部下は一番最後。
なんとも言えない嬉しい待ち遠しい気持ち・・・・
が、、、、、技術者の執念!
学芸課長が“ちょ、、ちょっとぉ!もうその位に!”と言う位
食らいつき時間を引き延ばし見つめたのである・・・
そしてイヨイヨ私、、であったが、、、最初からの技術者の引き延ばし
にイライラしていたのか、、私は本当に5秒以内、、3秒くらいであった。。
。。。。。。。。。。
でも、、わずか開いたガラスから覗き見た
紅白梅図は
とんでもなく
大きく見えた。。。
つづく。。
いよいよ美術館に伺う日がやってきた。
この年は例年と違い、紅白梅図は2月からの公開
ではなく、一月の確か28、29あたりから公開していた。
美術館側に校正の方向性の確認が、この日の重要な仕事であった
のであるが、それと並行して実物の確認、これも重要な仕事であった。
これから具体的に作るにあたり何度も確認できるものではない。
しかもこの伺った日あたりから僅か約40日間の展示。。。
今回見るというのは、この一回で実像を網膜に焼きつけなくては
ならないということであり、それぞれ持ち場ごとに大事な箇所
当然印刷を受け持つ者は細部にわたる色の確認、屏風制作を受け持つ
ものは細部の作り、我々はやはり全体の印象・・・と、、それぞれ
が明確な意識をもって臨んだ。。
この日、伺ったメンバーは、私、私の部下の鳥居、印刷会社からは
営業のNさん他技術者3名、屏風制作会社営業のFくん、美術館への
担当窓口商社の営業Kさん、以上総勢8名であった。。
予定の時間までロビーで雑談をしながら副館長、学芸課長を待った。
30分ほどして事務所に来るようにと取次の女性から言われ、皆一列
に並んで事務所に入っていった。あらかじめ訪問メンバーは伝えていたので
あるが、やはり実際、大の男がゾロゾロと8名、そう大きくない事務所に
入っていくと、なんとも言えない圧迫感がうまれ、美術館の方も一瞬
ひるんだように思えた・・・
早速に東文研のデーターを広げ確認に入る。
美術館側は、驚くこともなく、あっさりと、欠損、破損部分等は
商品として美しく仕上げてください・・という事であった。
一般のお客様がお持ちの美しいイメージを再現してください。
と、言う方向性の指示であった。。。
正直、、私は少し残念であった。
実は、どこまでも忠実に現在を再現するということに、少し
欲求をもっていた。実際その方が“面白い”し付加価値を考えても
いいのではないか?と誰にも特に言わなかったが、そんなことを
考えていた。
実際、、、今でも残念なのである・・・
さて、
今回の問題は、このような答えを得て解決というほど生易しいもの
ではない。現状以外の“美しい紅白梅図”となると、一体どの時点での
経年劣化を再現すれば良いのかという問題が生まれるのである。
傷んでいるものであるのは間違いない、その傷み具合をどの程度にするか?
これは制作側の想像、イメージの世界に託されることになるのであるり、それを
美術館側のイメージとどうチューニングするか?実に難しい作業となる。。
まったく新しい、、それこそ光琳が書上げた当時を想像で再現したとしても
美術館の学術的見解に沿うのかどうかという問題が生まれる。しかし
この場合意外とリセットしてやり直しやすい部分があるが、今回のような
経年劣化のどの時点が“美術館の言う美しさ”になるのか・・・・・・と
言うようなものの場合、、、、改めて校正回数は多い!と腹をくくったので
あった・・・・
一通りの確認が終わろうかという時に、学芸課長から
「では、今の確認事項を踏まえて、紅白梅図を見にいきましょう!
まだ閉館時間ではないですが、今年は例外的なスケジュールで一月から
公開してまして、実は案外ご存じない方が多く、今は閑散としてます、
ちょうど良い機会に来られた。」
と声をかけていただき、課長のあとについて8名がゾロゾロ紅白梅図
の展示場へ向かった。
薄暗い展示場の一番奥
ぼぉ----と浮かび上がる
紅白梅図・・・
国宝。
美しい・・・
中学時分に教科書で見た、あの紅梅の根元、、人の足のような
間違いなく本物だ・・・・
しかも、、
頭の中に入っていたサイズより、、数段大きく感じる。。。
風格と威厳。
これほどまでに・・・・・“ 凛 ”としている絵画は
そうは、ない!
ある意味驚愕であった。
写真、書籍、ポスター
まったく別物だ。
これを1/2で複製するのか・・我々は。。
と、、しばらく8名は展示ガラスの前で立ち尽くしていた。。。
ぼぉ----と見ていたのであるが、気づくと
印刷会社の4名はカラーサンプルを取り出し屏風正面に陣取り
ああでもないこうでもないと打ち合わせを始めた・・・
立ったり座ったり、寝転んで下から眺めたり
顔をガラスにくっつけ・・・・・
学芸課長から
まだ完全な閉館ではないですから・・お客様のご迷惑にならな
いように!
と、注意されるぐらいのハイテンションで4名がガヤガヤと大声
でやりだした。最初は其のつど注意していた学芸課長も半ば呆れ
たように、、、諦めて見守ってくれた・・・
まるで子供がおもちゃ屋のウィンドウの前で、騒ぎはしゃぎ見ている
風景であった・・
閉館を約30分超えても我々はその場を離れようとはしなかった。
気づくと展示場に入ってからゆうに一時間は過ぎていた。。。。。。。
私も同じく、じっと何度も様々な箇所を見つめ続けていた。
あることに気づく・・・
あきない・・・
この絵は相当な時間見続けてもあきない。。。
そして、一番大事なのは、この威風堂々とした佇まい。。
これを果たしてどれほど・・・
と、ぼ------と考えていると、、、学芸課長から
「本当は絶対にダメなんですが、皆さんの熱意、これに
少し応えさせてもらいます。。」
「??」
「お一人“5秒”以内」
「??」
「この隅からガラスケースを開けますので、ガラス越しではない
実物の色を見て下さい。何度も言いますが一人5秒です。それ以上は
コンディションが変わりますので・・・」
皆、、、“えっ”とお互いの顔を見合わせた!
慌てて、それぞれ、ハンケチを口に当て、学芸課長が立つ
ガラス開口部に一列になって並んだ・・
それでは、と順番に5秒づつ学芸課長がガラスを開け閉め
という作業を開始した。。
この場合、技術者からの順である。
当然私や私の部下は一番最後。
なんとも言えない嬉しい待ち遠しい気持ち・・・・
が、、、、、技術者の執念!
学芸課長が“ちょ、、ちょっとぉ!もうその位に!”と言う位
食らいつき時間を引き延ばし見つめたのである・・・
そしてイヨイヨ私、、であったが、、、最初からの技術者の引き延ばし
にイライラしていたのか、、私は本当に5秒以内、、3秒くらいであった。。
。。。。。。。。。。
でも、、わずか開いたガラスから覗き見た
紅白梅図は
とんでもなく
大きく見えた。。。
つづく。。
