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光琳へ 5
屏風製作の会社の選定。


これは決めていた。


表具と一概に言っても、美術品の表装から建築の内装
果ては一般家屋の襖までその仕事は幅広い。


その中で屏風は特別である。



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※特別なのは理由もあった。
消費税が施行される前、実は日本には”物品税”なるものが
存在した。これは所謂高級品に課税される税金で、屏風は
その対象とされていた。。
だから結果として同じ美術品でも取り扱う業者がかなり
限られていた。。


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これが大事なのであるが
“コストを抑え時間的制約の中でクオリティーを保ち
“数”を作れるという条件がある。


あまり知られていないが、実は数を作るだけであれば
案外多く存在する。また安く作るのも相当数存在する。


これらの存在を支えているのが、人形(雛武者・雑貨の類)の背景
に立てる小さな屏風を作る職人達である。


しかしこれらには問題がある。


クオリティーが“美術品”のレベルではないという事であった。
それは材料もそうであるし、技術においても同じであった。
また、それらは全て小さな存在であり、個人的なレベルで動いている
点でしかなかった。


あくまで美術複製品を制作するというレベルと美術館の校正に
耐えうる仕事ができる、及び複製品として販売する場合の安定的
な供給を支えられる存在と言う条件が必要となる。


そういう様々な職人が存在する世界で、こちらが求めるものを
形に変えるという事ができる存在を考えれば、


屏風を製作できる“会社”である必要があった。
あくまで株式会社が必要なのだ。これは先のブログで書いた
通り、実際の技術の前に、インテグレーション力を如何に
発揮できるかという事が最優先される問題であった。


要するに、少し管理コストが上がっても、優れた技術者、職人を
束ねられる力が必要であり、それらを管理し交渉できる立場を取れ
る“会社”が必要なのであった。


私一人が職人間を飛びまわり管理交渉しても、所詮門外漢であり
ネゴシエーションも出来ない。それらを一つの窓口で一手に背負って
くれる存在が必要なのであった。そしてベストなのは過去の仕事に
おいて比類のない実績を持っている会社これが最良であった。


そんな存在があるのか?となるが。


存在した。この存在は実は以前から知っていた。


それは名古屋にあった。
京都ではないの?と疑問を持つ方も多いかもしれないが、一点一点の
レベルではそうかもしれない。しかし今回の条件に適う存在は京都には
無かった。というか、、これも“蛇の道は蛇”なのであるが、結局、京都で
発注しても、材料からなにからコスト面を握るのは名古屋なのである。。
その上に“高いブランド料”が乗っかる…


A社。


安政年間創業。およそ150年の歴史を持つ。その仕事は宮内庁、及び
世界の150カ国以上の日本大使館・総領事館で使用される屏風を納品。
外務省の規格基準を持っている老舗である。


名古屋に出向き説明した。
今の段階はまだプレゼンテーション前であり、実際に動くかどうかも
分からないという事を前提に話をした。金額も納期も当然数量も、大まかな
私の想像世界の話でしかない。しかし、屏風に関することで出来ないことは
何もない。こんな仕事が出来るならば協力しましょう。


と快い返事を頂いた。
そして一人の若者・F君が担当者として動いてくれることになった。


…というか、、、この会社に蹴られれば、後がなかった。。。。
それほどこの会社の内容は優れているのはもちろんの事
今回の仕事に適任はいなかったのである。選択の余地がない。


これで技術面の屏風という部分はおさえることが出来た。
次に印刷面である。


印刷会社の選定を行う。


といっても、私一人が情報をまとめて交渉するだけ
なのであるが…


世の中に印刷会社など無数にある。


しかし、“蛇の道は蛇”である。


こういう仕事ができる会社は100も200もない。


過去、自分の仕事の中で得た情報と前回のブログで書いた
通り、ブランドを誇示できる実績等を勘案して選定すれば
5本の指で足りる程度に集約できる。


当然、DやTというような日本を代表する会社に仕事を
持ち込めばどのような手段を用いても出来るのであるが、
そうなると、私など一気に吹っ飛んでしまう。必要なくなる。
そして、仮に出来てもべら棒な金額を請求されるのは目に
見えている。


だから最大手でなく弱小でもない、その中間でクライアント
の指示に正確にしたがうことができるための過去の実績と
ノウハウの蓄積がある会社という事に集約できる。


そういった条件から4社選び問い合わせてみた。


その内1社は完全に眼がね違いであった。商業印刷の技術力
しかなかった。


ここで少し注釈を加えさせてもらうが、印刷といっても所謂一般が
イメージする印刷というものとは次元が違う。ポスター、リーフレット
DM、パンフレット等の商業部分の技術力だけではない。芸術的な版画
という技術を含む美術印刷技術の力のことであり、それらを商業ベースに
転嫁できる技術力の事を指す。版画家の技術という印刷義技術の一部を完全
に網羅し尚且つ商業印刷の工業力を有する実力である。複製ということの
全域を網羅した最高の技術力である。


残り2社までは“笑われた”。取り合ってもらえなかった。
概算の見積もりを見ても到底商品化できる値段ではなかった。最初に
最終的な小売価格の想定を話していたにも関わらず。という事は、真剣に
取り合ってもらえなかったと判断してもおかしくない。
理由は最初の問い合わせで既に判明していた。それぞれ過去アタックして
おり、物の見事に粉砕してきたからであった。


君が?できると思ってるの?


見たいな感じで軽くあしらわれた…・
当然かもしれない。この時点では雲を掴むような話であり、何の根拠も
示せていなかったのである・・


最後の一社。


大阪に本社があった。


部下を連れて伺った。


これを“けられる”と辛いなあぁ~と心の中で呟いていた。。


二人担当の方が応対に出てきてくれた。


NさんとHさん。
Nさんは50前後。Hさんは失礼だが定年前後にお見受けした。
いずれにしても大ベテランの風格があった。。


また、、駄目かな?と思いつつ、概要を説明した。


黙って聞いていた二人が、話を聞き終えて直ぐ。


“おもしろい!”と眼を輝かせて答えてくれた。


完全に駄目かな?と思いつつ話していた私は“えっ?”と
拍子抜けしたような…ホンマ??のってくれてるの?この人たち?


初めてであった真剣にとりあってもらったのは。。


「上山さんこれはどうなるか分からんけど、協力しますよ!
だってホラ、NHKの!あれで、、見ました?」


「えぇ、、見ました。金でしょ?これがあるから美術館との交渉は
確実に難航しますし、まぁまずその前に取り掛かれるかどうか?
本来作って校正にもっていくという手もありますけど、ほとんど
の会社が頓挫したモチーフですから、やっぱり根回しして動かないと
…ということで、、まだ出来るかどうかわかりませんし、、、、、、」


「まぁ、そうでしょうね!これは印刷屋にとっては、相手にとって
不足どころか最高の強敵ですよ!でも実はこのテーマの金にうって
つけの技術があるんですよ!」


「えっ?それは実際の金箔を使用するような?」


「違います。ずっと昔にあった技術です。」


確かこの数日前、大手印刷会社が金箔を使う新技術を発表
していた。私はその技術のアレンジ版かなにかか?と思ったの
であった。。


「昔の技術?」


「そうです。」


と、席を外しなにやらサンプルピースを取りにいかれた。
戻ってくると両脇には大きく巻かれた和紙があった。


話をしていたテーブルの上にその和紙を広げると
そこには“円山応挙”の襖絵の一部があった。。。


うん?金箔??あれっ??


アー—------!なにこれっ?これ印刷なんかぁ?


見事に箔を使わずに箔の雰囲気を再現していた!!
光彩によって箔と同じように輝く…


こ、、これは使える!


「どうですか?これならいけるのではないですか?」


「い、いけます。たぶん。。。しかし、、」


Nさん、、朗らかに!


「やってみましょうよ、金額のことも分かりました。なんとか
商品化できるよう頑張りましょう!なによりも国宝でしょ!
こら、我々にとってもありがたい試練ですよ、ね!」


と、隣のHさんを見ると


にっこり、笑われていた。。。







このとき私は始めて重要なことに気づいた。


こういう仕事に本当に大事なのは


やるんだ!


という情熱。


自分の仕事のプライドをかけて立ち向かう


情熱だ!


この情熱が結集しなければ、とても完遂することは出来ない
その大事な要素を、屏風と印刷の会社と打ち合わせして気づいた
のであった。。。。




つづく。

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