May 22,2010

宇喜多秀家という武将がいた。
関が原敗戦以降、紆余曲折はあるが生き延び、
最終的に“八丈島”に流刑となり、そこで50年、
84歳まで生きたという武将だ。。。
私はあるときこの武将に強烈な興味を抱いた。
以前から思うのであるが、現在の岡山の県民性は
江戸時代の統治者である池田藩ではなく、その前
の戦国時代の統治者である宇喜多の性質が現代
にも色濃く反映されているように感じるのである。
その代表的な性質の持ち主とは秀家の父・祖父
であり、謀略の限りを尽くした戦国の梟雄で、とも
すれば北条早雲や斎藤道三以上であるかもしれない。
この現在で言うところの岡山県を中心とした東西の
立地は、全ての中心であった京都とは遠隔地に位置
し戦国の覇を競う拠点としての性格が弱かった。
しかし毛利と全国統治を視野に入れだした秀吉が
対峙したときに初めて軍略上において重要拠点とな
りだした。
そのタイムラインから初めて戦国覇権ドラマの
全国的レベル、この岡山近辺の名主は登場したため、
それまでの宇喜多の所業はさほど周知される事もなく、
その恐ろしさの喧伝が後世においても詳細になく、
薄くなった帰来がある。
しかしよく調べると宇喜多とは、本質的には戦国
史上でも稀有な下克上武将であることは間違い無い。
さてその宇喜多の草創期を築いた武将と秀家が同類か?
というと少し違う。父亡き後秀吉の寵愛・庇護のもと、
五大老となり豊臣政権下では隠然たる権力を持ち得た
のである。
そして家督を継いだのが9歳という少年時代であり、
そこから秀吉の近習として帝王学を備えられる。
出来あがった彼の姿は、中国地方の梟雄であった
祖父・父とはまったく違う“貴人”然としたもので
あった。。
よく戦国ドラマでも登場するが、大抵眉目秀麗な役者
が演じ、おぼちゃま気質を反映するかのような激烈な
性格を表現したりしている。。
ある意味彼は30歳前後まで栄耀栄華の限りを享受し、
歴史の中心人物として活躍していた。
それが関が原の敗戦を期に、急転直下歴史の表舞台か
ら姿を消し、それどころか世捨て人として残りの人生
を過ごすのである。
ここまで強烈な人生の反転はあまりないだろう。。
確かに後醍醐天皇も悲しみのうち吉野で崩御されるが、
ある意味歴史的な意味をもっていたし、それ意外の歴
史上失脚した人物にしても、大抵その時点で死を選ん
だりする。
自身の人生哲学、とくに武将という性格から考えても
秀家の選択は他とは大きく違う。
遠島時点で恐らくお家再興は断たれたという結果であっ
たはずだし、自分の生きる意味が無くなったと考える
のが、この時代の武将としては自然だろう。。。
しかし彼は生き長らえた。
生き長らえたどころか、当時の平均寿命からすると、
倍近い年月を生きた事になる。
そこが私にとっては最大の興味のポイントである。
30歳で失脚、そのご50年絶海の孤島で過ごす。
彼の人生という観点考えると、明かに50年生きた
孤島の生活こそが彼であり、その前半は彼にとって
は人生という時間で考えると僅か三分の一くらいし
かない。
ある意味後半生から前半を見ると“夢幻”程度でし
かない。
それは“浦島太郎”のような。。
何故彼は死を選ばなかったのだろう?
傅く家来もなく、罪人として、栄華を誇った30年の
人生の倍近い時間をどのように過ごしたのであろう??
何故、生きる事に執着したのだろう??
いや、執着したのだろうか??流れの中に身を漂わせ
ただけだろうか??
果たして幼少から帝王学を身につけたものが、そう
いった達観した考えを持ち得たかは少々どころか大
いに疑問がある。。。
しかし、品性下劣な生への執着という汚らしさも感
じないし、ある種の誇りが、不思議にもある。。
生きている時間ってなんだろう?と考えると
結局、今という実感を得ることができる時しかない。
今以外の過去や未来など、ある意味ないのではない
だろうか?
確かに史実として残ったりするが、結局自分の実感
からは遠く離れた“夢”でしかない。
未来にしてもそうだ、なんらの実感はない。
あるとすれば、どういった考えをもって夢想するか
だけである。
そういう意味ではやはり夢でしかない。
以前聞いた事があるが、茶の世界で“夢”は死を
意味するらしい。
それは少しだがわかるような気がする。。
秀家の哲学は知り得ないが、私はこの絶海の孤島
にての50年は、他の武将にはない独特の哲学が存在
したんじゃないか?と今でも深い興味を持っている。。
事実、何故かわからないが、明治になりときの
政権が宇喜多家を赦免している。
250年後の名誉回復である。。
こんな事にその時点で意味があったのか?疑問だが…
秀家の流刑、そして絶海の孤島で歴史と無関係で
ありながら生き長らえたからこそ、この赦免には
大いなる意味が存在する。。。
そして生きるという意味と誇りを考えさせられる。。
