Preparation
2008
準備
H90.9 x W72.7 cm
30 F
acrylic on canvas
(c) 2009 COMBINE

この絵の未来は、僕の他の作品と比べればそう遠くない未来を描いている。割と理解しやすい作品だと思う、少なくとも僕自身にとっては。彼女はハウジングとおぼしきものの内部にいる。それとも、ある種の輸送機なのだろうか。彼女は小さなロボットたちに身の回りの世話をしてもらっている。これは、いつの日か僕達に代わって、医学と美容の両面から僕達のボディ・メンテナンスすることになるナノテクノロジーを象徴している。

ロボット達は彼女の爪を手入れし、髪をスタイリングしている。これは、人に優しいテクノロジーが生活の身近な場面にまで浸透し、サポートしてくれるお陰で、僕達はつまらない単純作業から完全に開放される。それは70年代や80年代の万博でもてはやされたロマンティックな未来像そのものだ。

僕達はあまりにもあっけなく、そのロマンティックな機械化世界の時代に突入し、駆け抜けて来た。しかし次第に、僕たちは機械化世界・テクノロジー依存に伴う極度の倦怠感、非社会的、社会病質的な側面を内在させることなり、社会の中で憂慮する声があがるようになった。

この作品の時代において、これほどの文明の利器と娯楽に甘んじることができるのは地球人口の1%という一握りの恵まれた人間だけなのだが、この絵の女性は、ちょっとした退屈しのぎの夜遊びのために身支度をしているようだ。これらのロボット達は、何かしらの悪意に満ちた企みを隠し持っているのだろうか?そんなことは誰にも分からない。そんな異種な物であるロボットが及ぼす影響を恐れる原始的パラノイアを簡単に振り切ることができるのだろうか?

僕らが人間らしい疑問を振り払い、憂いや恐れから解放され、心から安らげる日は、果たして訪れるのだろうか?

※パラノイア:精神病の一種で、体系だった妄想を抱くものを指す。自らを特殊な人間であると信じるとか、隣人に攻撃を受けている、などといった異常な妄想に囚われるが、強い妄想を抱いている、という点以外では人格的に常人と大して変わらない点が特徴。